乙一著『夏と花火と私の死体』
2003年10月23日就職講座で、最近乙一を読んでいると言っていた友達に
「『夏と花火と私の死体』読んでみたいなー」
と言ってみると、彼女は
「あ、私も読んでみたい」
と言っていた。
それから5日後、彼女は自分の日記スペースで『夏と花火と私の死体』の簡単なレビューを書いていた。
フットワークの軽さに驚かされたものである。
さて、この話。
小学校3年生で仲良しの五月と弥生。
小学校5年生で弥生の兄、健。
そして弥生と健の従姉弟でアイスクリーム工場で働く緑。
しかし、とあることがきっかけで弥生は五月を殺してしまう。
五月の死体を隠すための、小学生兄弟の夏の日々が始まった。
物語が、死人となった五月の視点から語られているのが最大の特徴。
技法としてとても新鮮で、且つ面白い。
物語の進行を務める彼女の語り口が、小学校3年の割に妙に冷静なのが気にかかるところだが、時にそれがかなりいい具合に生きてくる。
五月の母が五月を探す時の描写、
「その背中はやけに細く、ごはんを食べている時にテレビを見るなと鬼のように怒るお母さんとは別人のようで、わたしは辛かった」
「健くんと弥生ちゃんにも、溝に隠された私の死体にも、そして夜の森で私を泣きながら探しているお母さんにも闇の帳は降りてくる」
この2つの文は、読むだけで胸が締め付けられる思いがした。
「私」が語り部でなければ、特に何の変哲もない文だろう。
そして、私が語り部だからこそ、弥生と健くんへの怒りが湧いてもくる。
この話の何が一番怖いかと言えば、健くんだ。
小学校5年ながらも明晰な頭脳、冷静さ、そして過度の妹思い。
五月を殺したのが弥生だということを知らなくとも、母親が悲しまないように、と訴える弥生のことを思い警察にも連絡しない。
そして、五月の死体が見つからないように様々な策を練っては実行し、隠しとおす。
見つかりそうになってはパニックに陥る弥生がいるからこそ、健くんの冷静さが際立って背筋が凍る。
だけど、健くんが次から次へと案を思いつき、かけずり回ってくれるからこの話は中だるみすることなくとてもスムーズに読める。
応援なんかしていないのに、見つかりそうになるとヒヤヒヤしてしまうのは何故だろう。
「かごめかごめ」のエピソードは蛇足。
もっと他の書き方あるだろうに、とは思うが、16歳でこれを著した乙一は、類稀な才能の持ち主であることは間違いないだろう。
今後が期待できる作家だ。
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乙一著『夏と花火と私の死体』集英社文庫、2000
「『夏と花火と私の死体』読んでみたいなー」
と言ってみると、彼女は
「あ、私も読んでみたい」
と言っていた。
それから5日後、彼女は自分の日記スペースで『夏と花火と私の死体』の簡単なレビューを書いていた。
フットワークの軽さに驚かされたものである。
さて、この話。
小学校3年生で仲良しの五月と弥生。
小学校5年生で弥生の兄、健。
そして弥生と健の従姉弟でアイスクリーム工場で働く緑。
しかし、とあることがきっかけで弥生は五月を殺してしまう。
五月の死体を隠すための、小学生兄弟の夏の日々が始まった。
物語が、死人となった五月の視点から語られているのが最大の特徴。
技法としてとても新鮮で、且つ面白い。
物語の進行を務める彼女の語り口が、小学校3年の割に妙に冷静なのが気にかかるところだが、時にそれがかなりいい具合に生きてくる。
五月の母が五月を探す時の描写、
「その背中はやけに細く、ごはんを食べている時にテレビを見るなと鬼のように怒るお母さんとは別人のようで、わたしは辛かった」
「健くんと弥生ちゃんにも、溝に隠された私の死体にも、そして夜の森で私を泣きながら探しているお母さんにも闇の帳は降りてくる」
この2つの文は、読むだけで胸が締め付けられる思いがした。
「私」が語り部でなければ、特に何の変哲もない文だろう。
そして、私が語り部だからこそ、弥生と健くんへの怒りが湧いてもくる。
この話の何が一番怖いかと言えば、健くんだ。
小学校5年ながらも明晰な頭脳、冷静さ、そして過度の妹思い。
五月を殺したのが弥生だということを知らなくとも、母親が悲しまないように、と訴える弥生のことを思い警察にも連絡しない。
そして、五月の死体が見つからないように様々な策を練っては実行し、隠しとおす。
見つかりそうになってはパニックに陥る弥生がいるからこそ、健くんの冷静さが際立って背筋が凍る。
だけど、健くんが次から次へと案を思いつき、かけずり回ってくれるからこの話は中だるみすることなくとてもスムーズに読める。
応援なんかしていないのに、見つかりそうになるとヒヤヒヤしてしまうのは何故だろう。
「かごめかごめ」のエピソードは蛇足。
もっと他の書き方あるだろうに、とは思うが、16歳でこれを著した乙一は、類稀な才能の持ち主であることは間違いないだろう。
今後が期待できる作家だ。
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乙一著『夏と花火と私の死体』集英社文庫、2000
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