いじめれたことは、ありますか。
僕は、中学の時にいじめまがいのことはされたことがあります。
良い友達がいたことと、負けず嫌いの性分で不登校はしませんでしたが、中学を卒業してから道端で偶然出会った当時のクラスメートに「よく学校来るよな、と思ってた」と言われた事はありました。

この『星空マウス』の主人公である、高校生の「ぼく」もいじめられっこです。
彼は不良グループと、陰湿ないじめをする暴力ストーカーみたいな奴に昼夜問わずいじめられていました。
そんな折に、新学期を迎えて編入してきたIくん。
彼はいじめの事実に気がつき、「ぼく」を親友として守ってくれるようになります。

この世は真面目な、「人類は皆兄弟、話し合えば分かり合える」なんて思っている人には真に生き辛い世界でしょう。
悲しいけど、現実です。
そんな信念を捨てられない「ぼく」にIくんが教えた「生き延びるための手段」
学校も大人も教えてくれない、本当に必要なこと。
昔のIくんのような「ぼく」のための。
「友情」という言葉がこれほど似合う物語に、久しぶりに出会った気がします。
防波堤の上で彼らが語り合う、そんなシーンは、特に。

だから、結末はとても悲しい。
1章のラストの一行、
「そう、僕はいつも彼の背中ばかり見ていた。」
この文が、全てのように思えました。
Iくんが時には異様に思えるほど「ぼく」のために心を砕く理由も、わかりました。
そして、もっと悲しくなりました。

でも、何故か暖かさ、美しさが作品には広がっています。
話はとてもすっきりと描かれていて、「ぼく」と「Iくん」のエピソードには微笑ましいものも、心に染み渡るものも、いろいろと感じ取れるものがあります。
約130ページという短さなのですぐに読み終えることができるので、本に慣れていない人にもお薦めします。

この文を読んで下さっているあなたはきっと、僕を直接知らないでしょう。
恐らく僕も、あなたを知りません。
でも、だからこそ、精一杯大きな声で伝えたいです。

防波堤の上には彼らの、そしてあなたたちへの友情があります。
だから、絶対にそれより先に進まないでください。
夕日の海に魅せられて、進まないでください。

これは、いじめられた経験を持つ作者と、僕からの心からの願いです。

世界は、モノクロームではありません。
未来は、悲しいことばかりではありません。
絶対に。
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中園直樹著『星空マウス』文芸社、2003

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